『やが君』深読み書店

脳から産地直送・乱筆乱文 『やが君』の考察を中心に。

【やが君】続・続・選択問題−ドーナツ篇−

穴がないものはドーナツとは呼ばん。どうも、勝ち猫です。

 

「選ぶ」という行為は、物語にとって欠かせない要素かもしれません。ストーリーラインの分岐点、何かを限定し切り捨てること、それとは裏腹に「if」ルートを作るものでもあります。それでいて私たちの日常生活においても、普遍的な営みです。

進路選択、整数解くか図形解くか、ハリガネかバリカタか、打ち上げ花火下から見るか横から見るか...

 

そんなありふれた行為ですが、『やが君』にも大小様々な選択が登場します。今回はその小さい方を。

※ネタバレ注意※

 

 

原作とアニメ版の違い

全体的にアニメ版の方が原作版を補完する形で制作されている、という理解でいいでしょうか。

【特別対談】『やがて君になる』仲谷鳰×担当編集・クスノキ「エゴがキャラクターを決める」|コミスペ!

「これはアニメ版ではなく、完全版だ」とつぶやいておられましたが、私たちも同じ気持ちです。これは完全版『やがて君になるだなって言い合っています

よって以下の内容も、アニメ版と原作の違いは「補完」として扱います。それは紙幅の都合でできなかったことをやる、という以上に心情描写の補強として大きな意味があるのでしょう。

ドーナツ問題(原作)

ドクタードーナツ、通称「ドクド」での一幕。二人が分け合っていたのは「ドーナツポップ」でしょう。

ドーナツポップ 全6種類1個|ドーナツ・パイ・トースト|ミスタードーナツSP

燈子の奔放さ、そして侑へに対する、マウントまではいかないものの、強気な一面が垣間見えます。

f:id:SuiseiNoAho:20190312165701j:plain />

©仲谷鳰

 まんまドーナツポップ。6種類一つずつということで、 最後の二つに減るまでもなんらかの攻防があったものと思われます。

ここで少し気を付けておきたいのは、侑は姉がおり、燈子は姉はいたものの亡くなってしまったので、「ひとりっ子」の期間が相当あった、ということ。こういうのは「分け合い」に対する態度に現れそうですね。ねっとりと戦況を追っていきます。

 

燈子のターン

まずドクド入店、カウンターで商品を受け取り、席に着く。燈子のトレーに乗っているので、ドーナツは燈子のおごりでしょうか。ピックが2本ぶっ刺さってるので元から分け合うつもりでしょう。その後ドーナツポップに手がつけられるまではいくらか時間が空いていそうです。「探り合いタイム」が発生していたと思われます。

 

...燈子「侑も何も言わない?」

侑「言いませんよ 何も」

燈子「だよねぇ」

ここで燈子、先手を打ちます。彼女が選んだのは...なんだこれ?

ヤバイ。いきなり壁にぶち当たった。まあドーナツの種類は今はどうでもいい。

 

まるで侑から言質をとった後に自分の食べたいものを選んだかのようなやり取りです。若干オレ様気質も見える。まあ先輩だしそりゃ...という線も考えられますが、この二人はもっとただならぬ関係ですよね。あの河原での侑の「約束」は完全服従宣言ととらえられかねない。こんな些細なやり取りでも二人の関係性が滲み出てる。

 

侑のターン

まあ普通に先輩より先に手をつけちゃまずいよね。そもそもおごられてんだし。

この光沢...ポンデストロベリーボール?自信ないすけど。

侑のターン、燈子の先制攻撃からかなり時間がある。 数学の問題に悩んでいたようです。そして...

 

侑「もうちょっとで答え出そうなんで」ここでドーナツを選ぶ。

 

もちろん侑の言う「答え」とは、問題の答えなんでしょうが、あのこよみ大先生の慧眼によれば、優柔不断とされている彼女のことです。ドーナツ選択問題で悩んでいても不思議じゃない。こんなとこまでリンクさせてくるとは...何なのこの漫画。

 

(その後なんやかんやあり、)

 

決戦、エンゼルクリームボールvsチョコファッションボール

侑、交渉を持ちかけます。ここに至るまでの侑の独白も...ようできとるわ。

侑(とうこせんぱい、なんて呼べない わたしからは何もできない

先輩はいつもわたしのこと好き勝手振り回すくせに)か〜ら〜の〜?

侑「あ 最後 七海先輩どっちがいい...(ですか?)」『わたし』からアクションを起こす。この「あ 最後」が渋い仕事してんね〜。「ふと気付いた感」を演出したかったんでしょう侑は。実際はそこまでの間もつらつら考えていたんですけど。

 

ここからは以下のような解釈ができます。

燈子(どうせ優しい侑のことだからわたしのいいようにしてくれるんでしょ?私たちの間に今更そんなの必要?)「クリームのほうもーらい」

 

侑(せめてドーナツの種類くらいは自分から決めに行きたい。というかふつうにエンゼルクリームが食べたい。先輩と被ってもじゃんけんとかで決めればいいや。)「あっ!わたしもそっちがよかったのに」

 

侑(この人は)

 

侑&佐伯先輩「「ずるい」」

 

ちょっと。佐伯先輩。あなた今は。

 

しかししかし、侑の呼びかけは、単に先輩の名前を呼ぶための口実のようにも見えてしまいます。「とうこせんぱい」呼びは、第11話ですでになされていますが、このドーナツ問題における侑はあの激エモ百合百合フェスティヴァル・体育祭を経験済みです。あの頃のようにこともなげに呼べはしないのでしょう。故に、「あ 最後」のワンクッションの間に躊躇したのだとも考えられます。

 

 

なんかアニメ版と原作版を比較するような雰囲気を序盤で醸し出してましたが、1シーンで1エントリになっちまった。このテーマの記事は何本かに分けて出します。じゃんけん問題も出題されます。

 

では今日はこのへんで失礼します。