『やが君』深読み書店

脳から産地直送・乱筆乱文 『やが君』の考察を中心に。

【やが君】5・6巻の感想―舞台の幕はまだ閉じない―

 『やが君』のこと考えると息もできない。どうも、勝ち猫です。

巻ごとに切り離して考えるなんて土台無理な話ですが、今回は5・6巻にフォーカスして書いていきます。だってしょうがない、零れちゃいそうなんだもん。

 

この巻は問題の沼の本当の深さが判明したというか…星までの距離が思っていたより遠かったというか……辛い。辛い巻ですね。

 

それでは舐めまわすように見ていくとします。

 

※以下、ネタバレ注意※

 

 

 

はじめにー僕のスタンス

 伏せられていようがいまいが、線という線を伏線とし、わずかな凹凸から血眼になってレリーフを探します。この作品はそれほどの強度を持つと僕は思います。

僕の脳から零れゆく語彙力…それを両手で押さえ、携え、この巨大クソエモ感情に立ち向かっていく所存であります。

 

6巻表紙

 恐らく発表時も多くの方がザワついたんじゃないでしょうか。

なんと、ここに来て表紙が燈子オンリーです。

さらに裏表紙。舞台の下手からはけていく侑。一度侑は先輩との「舞台」から降りる、という流れでしょう。すでに別離のかほりがプンプンしています。

 

 ここでこれまでの表紙を確認すると、

1・2・3 巻→ 燈子 侑

4巻→ 佐伯先輩 燈子   侑

5巻→ 侑 燈子

6巻→ 燈子              | |  侑    

 

といった感じです。4巻は佐伯先輩が一歩、燈子に踏み込んだ巻でしたね。

 

さらに詳しく見て行きますと、燈子の左方に体育館の出口が見えますね。

出口と言えば5巻で侑は燈子の手をとり、水族館順路の手口へと導いたのですが、

そのときの燈子の台詞、

 

「このまま、終わらなければいいのに」

 

を受けているのではないでしょうか。

ここでこの記事のキーワードの一つとして「終わり」を掲げたいと思います。

詳しくは後述。

 

背表紙

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©仲谷鳰
 

 見りゃわかるよって感じ。あぁ…嘆息。佐伯先輩の視線の先は?

キリよく9巻完結とかでしょうか?

 

サブタイトル「開幕」「前篇」「後篇」―舞台はまだまだ終わらない―

 あれ?じゃあ「閉幕」は? これ引っかかっていい所じゃないでしょうか。止められても俺は引っかかるぞ。

今回の記事のタイトル、こっから出てきました。さらにやが君は僕にたたみかけてきます。

燈子「終わっても、終わらないんだね」

はい出ましたキーワード。彼女はとても満足げな顔でこのセリフを放ちます。

さて、今回の生徒会劇は燈子にとって「たかが劇なんて言えるものではない」、人生の一大イベントでした。不幸により未完のまま終わってしまった「澪」という台本をなぞって生きてきた彼女。その欠けたラストページが今記されたわけです。

 

イベントなんて必ず「それ以前」「それ以後」があるとは思いませんか?つまり、何らかの大きな変化があるはず。これについては後述。

 

そして、一体何の「終わり」なのか。僕はここに苦しみました。

 

 ストレートに生徒会劇か。それを言うなら、「終わったから、終わった」。

 「澪」を演じ続ける人生か。確かにこの先の「台本」はもう用意されていません。

 上述の水族館でのセリフから考えると、侑との淡い日々、「澪」あってのその関係、

 長年の夢へと向かう途上の日々。

 

それが何であっても、それが終わらないことは燈子にとって望ましいことであるようです。

新キャラ 奈良先生

生徒会劇は「閉幕」しました。もう燈子にとって演じるべきものはないはず。

しかしそんな彼女を「演じる」世界へと誘う奈良先生。

そうです。終わらせてくれません。

 

やが君を貫くキーワード「演じる」

 すみません。ここで一度話の範囲をおっぴろげます。ここらの話はまた今度単発で記事にします。ここ数週間偏差値20みたいな生活送ってきたのでそろそろ頭がキツい…

 

やが君世界の「演じる」には大きく二つのレイヤーが存在します。

1.日常における「演じる」

 この演者には燈子、侑、佐伯先輩が含まれます。他者から認められる人物像を演じるということ。本心を隠すということ。「好き」の束縛から逃げられないということ。

そして演技であるかの判断が困難な演技です。

 

2.劇中劇における「演じる」

  これはもうそのまま。生徒会劇のことです。演者には多少の照れもある。見てる人も演技だと思って見てる。

演技である事が自明な演技です。

 

この二つのレイヤーがあること、劇中劇があること。これが『やが君』を複雑で、面白く、悩ましいものにしてい…ま……す。

あー、もうギブ。撤退しまーす。

 

 休憩兼ひとまずのまとめ

 んでんでんで、結局お前は何を言いたいんじゃというと。

僕は燈子の「演じる」問題はまだ解決していないと思います。燈子はまだ変わりきれていません。

 

もちろん快方に向かっていることは確かです。

しかし侑との関係が進展するにはまだ不十分でした。

 今は我慢だよ小糸さん。

 

今回やっと侑の、燈子の、佐伯先輩の立ち向かう問題の大きさが判明したのです。

読者には。

 

は~~、マジでもう…(語彙力切れ)

 

 

メタファー的なやつ(適当)

松葉杖(6巻)

ちょっとチルダウンさせて。

燈子にとってもはや不要のもの。支えですね。それを受け取るのがナース侑。

初めは2本ということで、侑と佐伯先輩二人のこと、という線も考えましたが、基本2本1組ですもんね。受け取った侑の複雑な表情、「もう大丈夫だね」という言葉、確定でいいでしょう。

線路(5・6巻)

線路は6巻P124の一番上のコマのことです。ページには大きなコマが3つ並び、線路のコマは横長で、世界の広がりを感じさせます。複数本の線路。前ページの燈子のまぶしげな顔から、キメのコマでしょう。

侑が何かをまぶしがる描写は今まで何度も出てきましたが、今回は侑ではなく燈子がまぶしげにしています。侑は誰かの「好き」に触れたとき、「まぶしい思い」をする。

ここで5巻に戻ります。P35の一コマ。一本だけの線路。このページは縦長のコマから成り、何とも窮屈な印象です。ここのくだりは死を強く想起させるものでした。アニメ版は尚更。

もしかして燈子の「演じる」って「澪の死」まで含まれるの…?

とゾワゾワ。キャラが生死に関わる危うさを見せると緊張感が半端ない…ただでさえ『やが君』緊張感あるのに。

 

この二つの対比は間違いなくポジティブなものです。劇を終え、燈子からは以前のような頑なさはなくなりました。乗り換えもしました。別の道も見えました。線路は続くよどこまでも。

けど、まだ、まだよ!小糸さん!

 

線路って2本1組、寄り添うように、しかし決して交わらず伸びて行く…素敵やん? (適当)

交点/交差点(3巻)

いや、書いてる途中で思いついたんすけどね。3巻のサブタイトルです。

あのエピソードは佐伯先輩と侑の交わりについてのものですが。

交差した道は二度と交わることはないでしょう。佐伯先輩と侑の、燈子へのアプローチの違いを表しているように思えます。

果たしてどちらの道が燈子へと交わっていくのか…あるいは並走するのか?

 

イルカとマンタのキーホルダー、そして水族館(5巻)

イルカとマンタ。同じ海の生き物ですが、大きくかけ離れたものです。

イルカは哺乳類で、肺呼吸。ずっと海中というわけにはいきません。必ず息継ぎしないといけない。

一方のマンタは魚類で、海でしか生きていけません。水中でしか息ができない。

アニメ版では水は侑に深く結びついたモチーフでした。水に関する描写は元はアニメ版の表現ですが、一緒くたに考えてしまいましょう。

 

侑と燈子、出会う前はともに「好き」「特別」のない世界、海にいた二人

しかし出会いを経て、まずは一足早く、燈子に「好き」「特別」の光が訪れます。

やがて自らが燈となった燈子。煌々と光る「好き」の光。そのまぶしさに目を細めながら侑も光に手を伸ばすも…

水面を突き抜けた先では、侑だけは息ができないのです。

侑も燈子も、初めは同じ水の中に住まう言わば「水族」でしたが、その二人の間には想像以上に大きな隔たりがあった。

しかし、水族館では侑は燈子の手を引き、海から飛び出すことに成功します。

 

そういえば3巻の体育祭で侑はポカリ飲んでますね...

 

 

...あっ...海.......七海先輩....あっ....!

 

 

ていうか全然意識してこなかったけど侑と燈子は(告白はノーカンで)初恋同士なんだよな。はぁ~~~っっほんっとにもう(語彙力喪失)

 

崩落寸前の書類の山(6巻)

迷いまくりの侑。折しもその前話、侑は一度燈子への告白を線路沿いで踏みとどまっていました…。

 侑はすでにはっきりと、告白がどのような事態を招くのかわかっています。侑は冷静に自問自答します。そもそも侑の危険察知能力の高さは3巻の体育倉庫のシーンでその片鱗を見せていますよね。

しかし「劇以後」の先輩、「今の先輩」への淡い期待。これが命取りでした。

鳴らない、踏切(6巻)/号砲は聞こえない

 2巻のクライマックス、告白シーンではしっかりと侑を押しとどめた踏切。

二度目は鳴らなかった。侑は止まらなかった。止められなかった。踏み切った。

いや、その沈黙こそが号砲だったのか?

静かな秋の川辺に悲しい告白が響きます。川のせせらぎはそれを打ち消すには小さすぎた。

 

今後の予想(と妄想)

 先に述べたとおり、この巻は「離別」の巻です。次巻7巻については、京都への修学旅行が予告されています。精神的にも物理的にも、侑と燈子は一旦距離を置くこととなります。その一方で、佐伯先輩と燈子の最接近が予想されます。

 

鴨川の飛び石

映画『たまこラブストーリー』でも告白の舞台となりましたね。もちろん侑と燈子の告白現場と結びつけずにはおれません。こんな舞台装置、使わない手がないだろ⁉︎

 

七海夫妻の参戦

「七海夫妻」って単語、佐伯先輩すごい食いつきそう。

セリフを持たぬ者に舞台に上がる資格はなかったが、対話へと一歩踏み出した。

「いろんなこと」の中身、詳しく聞かせてもらおう。

 

奈良先生

奈良先生の後に京都ってさぁ、引っかからずにいられる?(本日二度目)

 

表紙

佐伯先輩with燈子     でしょ?

 

 

 

 

 

では、今回はここまで。