『やが君』深読み書店

脳から産地直送・乱筆乱文 『やが君』の考察を中心に。

【やが君】二つの「そのまま」を徹底解説(後篇)−ヤバイ、以外の言葉で−

さて続き行きましょ。

 
suiseinoaho.hateblo.jp

 

 

※ネタバレ注意※

 

 

 

 

(承前) 解説

皆さんご存知、『やが君』におけるエモの臨界点、二度の河原での告白シーンに、二つの「そのまま」という言葉を入り口に今まさに踏み込んでいくのでした。

 

一応もう一度二つの「そのまま」を以下に挙げます。

 

ありのまま。取り繕わない、演じない、本心の。→そのまま♯

変わらないままの。→そのまま♭

 

前篇で、燈子と侑の二人の間の認識の大きな食い違い、すれ違いに触れました。

そしてそのすれ違いは、独白という形で読者のみに明かされ、登場人物たち、特に燈子はそれに気づくことなく物語が進行していきました。この状況が、やが君にただならぬ緊張感を漂わせていたわけです。

 

七海燈子の過ち/矛盾

 

そして、ついにその時が訪れます。

第34話で、燈子は侑が今まで「言葉を閉じ込め」続け、そのまま♯ではない状態であったことを知ります。作中誰よりも演じまくってきた燈子が他ならぬ侑の「演技」を見抜けなかった。それを侑のそのまま♯だと無邪気に信じていた。

 

ここで、僕は「そのまま」という言葉を通して、七海燈子さんの過ちを指摘したい。

 

まず、

そのまま♯→変化を免れない

演技→そのまま♭(変化しない)

という図式が成り立つこと。

 

演技には再現性があります。野村雅子はいつも何度でも悟空になれます。だからこそ、燈子は今まで完璧を演じてこられた。

しかし、そのまま♯が自分の意志ではいかんともし難いものであることは、燈子はもうすでに知っています。

2巻P24で、欲望のままに侑を求めるという、これ以上ないほどそのまま♯な燈子は「変わるよ そんなの」と言います。

 

つまり、

そのまま♭ではないということが、そのまま♯である事の何よりの証左となりうる

ということです。

 

燈子のそのまま♯の存在証明は、侑への「好き」です。「好き」は、自分の意思の及ばない、乗りこなすのが難しい厄介な代物で、それは燈子に変化をもたらし、同時に燈子の変化そのもので、燈子は侑に溺れていきます。

そんなわけわからん「好き」というものを今後も持たないと約束した侑。

侑はそのまま♭でいられる。侑はそのまま♭で、そのまま♯でいてくれる。

そんな彼女は、燈子の目には何よりも確かなもの、「特別」なものに映った。

だから燈子は自分のそのまま♯を侑に仮託した。

しかし、侑の「約束」はそのまま♯の侑から出たものではなかった。そのまま♯の侑は変化を望んでいた。燈子先輩の嫌う「好き」を手に入れるという変化を。

しかし、「演じる」侑は苦しみながらではあるが、そのまま♭でいることができてしまうのであった...

 

 

あ〜〜エモいしんどいヤバイ無理。百合畑見えてきた。

 

 

以上を踏まえ、前篇の内容について今度は個々に解説を加えていきます。

 

第10話 燈子「君はそのままでいてね」(侑の独白内に紛れて)(♭)

  前述の内容を踏まえた上でこのセリフを読み解くためにミソとなるのが、

この時点での侑は

「好きになりたい」だけで、まだ「好き」を持っていない

ということ。「好き」というもののヤバさ、無理さ(語彙力)をまだ彼女は知らない。

「いやいやいや!あんちゃん!侑はもう燈子のこと好きでしょ!恋に盲目でしょ!」

と思う読者の方とか槙くんとか観客とか槙くんとかがいらっしゃるかもしれませんが、僕の解釈としてはこうしておきます。

侑の「好き」に対する無知さが、あの「先輩のこと好きにならないよ」という、人類史に残る名セリフに繋がったのじゃった。

 

なんでそのまま♭が侑の解釈なのかというと、見出しの燈子のセリフを受けた後の侑の独白、(わたしは変わりたい)が最大の根拠となります。

まんまやんけ!と思う方、いると思います。けどだからこそ、こんなときこそ、深読みです。

 

第十話 燈子「君はそのままでいてね」(燈子の独白内)(♯∩♭)

上述した通り、燈子の目には、侑はパーフェクツです。燈子が恋に落ちたとき、侑はそのまま♯だったし、それ以外の「私」も持っていなかった。

そして燈子は侑に束縛の言葉を投げかけます。「好き」という暴力に添えて。

「これからもずっと変わらずに(そのまま♭)、そのまま♯(私を好きでない侑)でいてね」

 

「約束」した侑は本当はそのまま♯ではなかった。そして、燈子の望んだそのまま♯の侑は、他ならぬ燈子自身との日々により、少しずつ変わり始め(=そのまま♭でなくなり始め)ていたのでした...

 

第34話 燈子「今まで通り(=そのまま♭) そばにいてくれたら(=そのまま♯)嬉しいな」(♯∩♭)

燈子さん...ほんとにアンタって人は...

 

このセリフに至るまでの6巻P154-155の侑の沈黙、繰り返される燈子による「侑の変化」の無邪気な否定が、このセリフの残酷さを際立たせています。

 

いいですか。

そのまま♭でいられるってことは、それはそのまま♯じゃないってことなんですよ。怜ちゃんさんからも七海ちゃんさんに一言言ってくださいよ。

 

そして遂に、燈子の前に 本物の、そのまま♭でなくなった=変わってしまった侑のそのまま♯が現れたのでした...

 

「ごめんなさい わたしだって変わるんです」

 

 

 

内容としては以上です。

正直まだまだ満足に言語化出来てない。もっと体系的に説明できるはずです。

書いてる間に沼の深度最高記録が随時破られていくのをひしひしと感じました...

 

とりあえず一つはっきりしていることは、

「やが君、マジやばい。」沼からは以上です。